貞彦編686

 又玄関の方から声がしてキッチンの窓を開けてくれない?って呼び戻されそうでどきどきしながら執筆している。しかしあたしも人のことをヤーヤー言えない老境に突入で今月の18日に弟が還暦を迎える。小さいときから弟はあたしをずっと真正面から見ている。斜め横からも見てきている。あたしのすべてを知る人物で、どれくらいのあざとさを姉が身につけているかを彼は至近距離で見て来ている。世間の荒波に揉まれてきている分あたしの心はダークだろう。彼にはまだ木綿のハンカチーフのようなアイロン感もある。あってしかり。家庭を彼はとうとう持たなかったからだ。子供もない。しかしそういう人生をあたしは愛でる。家庭を持って奮闘してここまで老いぼれてしまった自分と比較して彼にはそうそうたる自己がある。それは比類のないものにも相当する。☆23945☆