貞彦編〔15〕

 父にも赤紙が来てそれはタヤリンにとってどれほどの悲しみなのか・・・戦地に行くことを拒むことは出来ないにしても自分は談判に行く、この構想は今のあたしでも無理・・・と怖気ずく。なぜなら人と同じようにっていうのは庶民の感覚に鉄則として織り込み済み。もしも自分だけ何かから逃れようとするのならたった今から非難されるは覚悟しないとっていう認識のもとにある。自由なフリーライターでさえ、そこまでの認識を培う日本。当時のタヤリン、切羽詰まった気持ちで縋る思いで長崎をあとにするんですが、予知夢を見ているんです。それが一度ではなく何度も。赤紙が来て大村でまず演習があるという時、釘を刺してしまい、足を痛めて苦しむ息子・・・行ってみると夢の通りになって横たわる貞彦。タヤリンには生れながらそういう性質があったようで、夢で何かが啓示のように示される。しかしそれは最初あたしは信じなかったのです。幾らタヤリンが言い張ってもそれを撥ね退けようとする十代の理性があった。しかし63歳まで生きて修練を重ねて、ごく稀ではあるけれど、努力を重ねた人にはそれなりの未来を見つめる目に対しての回答がはっきり提示されるという発見を得ている。それを活かすことも出来る。タヤリンが当時言ってたことは決して戯言の類ではないこと・・・自分がこの年齢に達して分かることも多いのです。