貞彦編〔14〕

 符合といえば、脇田大佐が昭和19年11月に亡くなる二年前、17年の9月末に、タヤリンの夫、光男は亡くなっています。まだ、赤紙が貞彦に来ていない時ですから、戦地に行くことを或いは心配していたかもしれません。光男は前の晩は普通に元気だったのに、朝、寝床を見ると、亡くなっていたんだとマレは証言します。心不全だったといいます。何も苦しむ様子を家族は見ていない。こんな死もあるんだな・・・って私も聞いた時は驚きます。マレはおしゃべりで姉のナガコも負けじ劣らじ。しかし一番末の、ミチは文学少女だけあって寡黙だった。女性に必要とされたお茶やお花を習得してもそれをひけらかすような自慢話もしません。マレもナガコもごく一般的な活発女子だったのに対してミチが地獄を見たことは言っておかないと・・・。原爆の投下された爆心地で運よく生き延びて命からがら家へ帰って来たのです。この時に美知がどの経路を辿って矢上まで到達したのか?姉のマレもそこを尋ねたと言いますが、全くみちは話してはくれなかったと言うのです。自分が見た地獄もそして、自分がどうやって生きて戻ったのか、余りのショックが美知を別人にしたのかもしれません。なぜ、生きて帰れたのか?みんなのお昼の準備をする為に缶詰めを取りに行っていた。そこまで聞くのがやっとだった。なぜなら美知が見た地獄はこの世のものではなかったからです。