貞彦編〔28〕

 あたしが父を査定するとき、真っ先に評価するのがその人間性です。それは弱者を優先するという視線ではなく、非常にシビアなのです。戦争に行って負けて帰ってきた人間はそれこそ、生きることにかけてシビア。努力してのし上がっていく者には文句をつけないし、逆に余りに過保護に扱う様子を見れば彼は容赦なく異論を浴びせてきます。昔型の人間でも彼は一応民主主義の息吹に触れた人間。しかも性善説性悪説なのかどっちともつかないタヤリンによって育成されたことが起因で、これに八方美人が屈折関与。昨日こう言ったかと思えば今日は全く違う面持ちであたしの前に現れる。そういう成り立ちを持っていたのでこの七変化を上手く利用しながら彼の心の推移を辿っていたというのがあたしのリアルでしょう。確かに一元化は不可能です。魅力あふれる人物が現れればすぐさまそっちになびきうる。そういう八方美人型であることを母は嫌悪していたのです。男と言う者・・・そんなに軽くてどうする?はあったと思うし、なるほどあの脇田大佐の実直な人生が下敷きにある母です。どんな大波を被ってもそこでの対処を父親から習った可能性は高い。しかしあたしが四人の祖父祖母の中で実際に相対したのは実はタヤリンだけなのです。そこを重要視しないといけません。タヤリンは性善説で生きた女性ではない。性悪説を獲っていた可能性大!!婚期を逃したけれど、最高の男をゲットすることにタヤリンは持てる全智を傾けた。その結果選ばれたのがのぼり画師の光男だったのです。