貞彦編〔115〕

 口だけ闊達で行動の伴わない兄弟たちではなく旦那のお兄さん、弟さん、どちらも苦労人の立派な人物です。お兄さんは厳しくあたしの亡くなった旦那を叱ったことがあった。銀行員になるということは田舎の村では大出世。それなのに何があったか知らないけどその銀行に結婚したことや新しく出来た家族のことを報告しないなんて・・・絶対ダメだぞ!!って。こんなにいい子供たちなのに早く届けなさいって。まだ、四十六歳の旦那を叱りつける。とても厳しい人物です。でも心は温かい。あたしは兄さんの言葉だけで嬉しかったけど・・・暫く時間は掛かったけれど旦那は兄の命を守って銀行に報告してくれました。もう結婚して三年以上が経過していて遅きに失したのか?それともこの兄の素晴らしさを知る為に、旦那の優柔不断はあったのか?などと思い巡らしたものです。しかし・・・後にまた定年まじかで事件が起こったことは親せき筋は知らないのです。マージャンで銀行から処分を受けて降格。旦那は身うちに言いたくなかったし、あたしも言わないでいいと思ってたけど、旦那が亡くなって三年もしたら、話してもいいかなって・・・。人と隔たりを持つように性格が変わったんです。誰にも話したくはなかったからでしょう。そしてクレーマーへと変身を遂げていった。自分で納得出来ない位の哀しい事に遭遇すれば人の人格は壊れてしまいます。ねじを巻けなくなった腕時計のような晩年でしたね。