貞彦編〔75〕

 父とあたしは喧嘩をしてもすぐに仲直り。いつも弟をネタに盛り上がる。本当に困ったしょうちゃんね~?と言いながらあたしは自分のうさを晴らし、しかも自分も弟と同様、落ちこぼれなのに、いっぱしに、書生気質を父の前では醸し出すのですから、生意気って言うか、したたかです。あたしの内奥の器用な部位が自分で分かっていたからでしょう。明日にも、どうにかなる!!っていうラクティブな気持ち。しかし世間様は中々そうは問屋卸さない。比較的明るい性向で陽転思考だったことに救われる。人が思っていることが面前で解析出来るというセラピストのような性質をあたしは生まれながら持っていたのです。父が例えば、あたしの家に向かって来ている。かんかんに怒っているのにあたしを前にして玄関で迷いも生じている。今・・・叱責を強めると自分の味方がいなくなってしまうのでは?っていう恐怖。父に生じたほんの小さな恐怖ですが、あたしはある程度人の心が読める。それに輪を掛け話術です。父があたしを叱責したいのならそうさせてしまうこともあった。黙って聞いてやる。彼が話を持って行き易いように間で見計らう。そして話が終わる頃、決定的な言葉で父を締め括る。あたしならこうするって。相手の目を見て話す。下らない奴には関わらない。父も本質は書生〔最終的に文学を獲る生き方〕だった。この共通項がきっと良かったんですね。