貞彦編〔53〕

 ちゃんとしてないとダメっていう父の心を凌駕していたのが優等生の生き方です。時には、教え子の餓鬼大将が出世して社長になってたとしても父の心を射止めるのはあくまでも優等生。だから、もしかしたら地元の人々にも少し距離を置かれたのかもしれない。おまけにあたしと弟が落ちこぼれになったことで、父の評価はガタ落ちでしかしそれでも父はまだ、あたし達にその後の人生を指南していたのです。アフター落ちこぼれですが、そうやすやすとあたしがそれにくみされる訳がない。優等生について話す時に父の目は輝き生彩を増す。あたしはジェラシーにも駆られるくらい戸惑う。なんとか父と心の共通項を見出して、彼からの評価を勝ち取りたい!!って。ちょうどいい休止符でもあったのです。父は選挙に惨敗し、そして長崎えほん風土記の出版も無事終え、生命保険会社に通っていた頃です。あたしはそういう生命保険に加入を勧める仕事に父がなぜ就いたのか最初は疑問に思ったんですが、教職員の退職金を預かる仕事だと聞き納得するのです。生命保険。この四文字は、あたしの心に点灯します。この仕事を父の目を通して、23歳のあたしが見ることになったのか?そこにも符合があると思う。彼が真面目に公共の乗り物を利用しながら長崎の各地の教職員の元を訪ねる姿を目の当たりにして、生命保険というものの仕事の奥底にも興味を持つのです。貯蓄商品もあるのか?それともやはり保障に大きなメリットがあるのか?と。