貞彦編〔37〕

 男なら立身出世を望まない方がおかしいし、そのキッカケになったものこそが敗戦でしょう。経験した者にしか味わえない苦難、そしてそこを試金石に出来れば・・・しかし明瞭な策はありません。父のモガキはあたしの心に伝わってきますが、あたしが高校に入学して父の目標が、総崩れになるような事件が起こる。あたしの学業不振です。もう自分のことにあれこれ気を吐いている場合ではない?が父に点灯し、最終学期の翌年二月、父は頻繁に学校まで来ていました。あたしには不思議な感覚がすでにあったのです。確かにクラスのみんなと別れてしまうのは嫌ではあったけど、これも運命なんだ・・・っていう気負いの対角線上にある二文字。この二文字が今でも心にイメージとしては湧き出て来てはいるものの特定が出来ません。仮りですが自信という二文字で表しておきましょう。父はあたしが落伍者になってしまわないように、徹底的に戒めます。今、この高校から離脱してしまえば、一生脛に傷を持つ身になってしまう・・・それでもいいのか?避けることがおうち〔あなた〕にとっては真っ先なのでは?って。しかしあたしの心はやはり作家なのです。命乞いをしてまで留〔とど〕まらなくともいい。風来坊の風がこれなのか?どこからともなく、それが吹いて来ようとしているな....。この種の雑感が占めていた。そのお仕置きにも似た転校によもや自分がなったとしても、それを経験したことが後〔のち〕なって生きるのでは?確かに甘い考えです。しかしもっと平たく言えば放浪こそが文学なのです。