貞彦編〔26〕

 普通は負けるとくやしがったり、悲しんだりと、もう二度とはこんな挑戦はしまい・・・ってそう縮むのに、父には不敵なあつかましさがあったのです。そして並行作業感覚。教職はそんなに甘いものではないのに、サイドワークで違う職種を目指してこつこつ勉強。それは自分を全く向上させない?いいえ、向かうとこ敵なし状況ではないものの、父に多くの知識、異分野の風を吹き付ける。子供心にもけったいな人物やなあってあたしは次に父が狙った獲物も一緒に感得します。テープレコーダーです。茶色のテープを巻き込んだりゆっくり作動させたりしながら父は自分の声を録音しているのです。小学生だったあたしは、なんでこんなに父の声は色がないんだろ?ってがっくり来ますが父はいいと思ってどんどん先へ進めます。本を朗読していくのです。人前で恥をかかないスピーチの仕方ですが、あたしはこれが父のやりたかったことなんだ・・・って納得します。毎日毎日学校の教壇で話しているはず。それなのに、なんでそういうのに興味持つんだろ?って。生徒ではなく大人に対して父は言いたいことが一杯あるんだなって段々面白くなるのです。愉快っていう枠組み。何も一切、父は世の中に影響を与えてないことは自明なのに、こうして今、それがダイレクトに反映されている。父が言おうとしたことをあたしが代弁に入っているからです。父から娘へのバトンタッチ完了ですね。