貞彦編〔12〕

 タヤリンの長女は四人の息子とひとり娘をもうけ、その内の、一人の男児を和田家に連れて来て育てていました。戦後のあの食糧難を思えばそれも理解可能なんですが、タヤリンという女性、普通の女性以上に賢かったのか、中々戦後、半年が経過しても貞彦が戦地から帰還しなかったこともあって、戦死したのでは?って半分諦めていた時期もあったようです。しかし・・・タヤリンのこと、心のどこかで念じ信じています。駆逐艦のどれかに乗船させてもらい、息子は復員して帰って来ること。すでに長女の産んだ息子たちのひとりを自分の家に連れて帰っていたことで後継ぎ問題はクリア。ここが注目なのです。明治の女の凄さは前もって前広にすでに解決させていたという一点。茨城に行って長女の家を訪ねた帰りに、黙って連れて帰って来ていたのです。この話を是非、後生に伝えて欲しいってマレにお願いされていた経緯もあって、なぜならマレはこれ位、親の一存で出来たあの頃、つまり女性は別の意味で行動派だったという事実に戦慄を覚えると言ったのです。長女夫婦は一晩中いなくなった息子を探します。警察にも届けてなぜ、居なくなった?って泣き腫らすけど犯人は実母タヤリン。これだけの子供達、食わせていくのが大変だろうとの母の思いやり以外にあったのがタヤリンの後継ぎ獲得の執念。執念深い・・・。こんなのいけないことだろ?って言う前にあたしもその行動力に瞳の瞬きが止まるのです。