貞彦編〔11〕

 タヤリンには三人の娘とひとり息子〔私の父〕がいて長女は専業主婦でした。次女は小学校の先生で三女は幼稚園の保母。私が小五の時に他界。原爆症でした。長女が私の母を嫌悪したのも当然といえば当然で母が自分の弟に対しての礼を全く尽してはいないっていう怒りがあったのです。次女のマレがそれを逐一伝えたのでしょうから二人の思想はセットです。私は異様な構図に自分が置かれていることを幼心にも知って戦慄を覚える。伯母さんたちが話していることは母の悪口で耳を傾けていたらまるで自分が非難されているように感じてしまう。危機感をつのらせるのです。夫を立てて家庭を切り盛りするのが当時はまだ当たり前ですから、途端に私の母の立場は苦しくなり、その子供である自分にももちろん罵声のとばっちりが飛んで来る。しかし次女である伯母はそういうものから逃げるのではなく自分の身体全体で受け止めさせようとしたこと・・・今になって思うのは真の教育者だったんだな?ってそこを痛感する。普通なら罵倒される現場に足を踏み込ませたくはないっていうのが大人の通常の逃げの体制ですが、伯母は何かキャッチしていたとそう仮定出来る。世の中で大成する為には片方の意見ばかりを掌握では全く埒が開かないっていう深層。母によって育成されてはいてもしっかり眼をこじ開けて、母が世間からどんな評価で見られているのか、その評価枠をじかに体験させたのです。